売りますか?「外伝」

やはりこの話はここできっちりケリをつけるべきだろう。
2月と3月に掲載したコラム「売りますか?」と「続・売りますか?」はどちらも1週間程度の短期間で自主的に削除したが、その間に残念ながら内容を見れなかった人も、ましてや幸運にも内容を見れた人なら尚更、削除されたままのコラムの結末が知りたいだろうし、私にもそれを伝える義務があると思う。

しかし、残念ながら私も日中はしがないサラリーマンであるから、これ以上社内で有らぬ疑いをかけられるのは私の望むところではないし、先に述べた2本のコラムで告発した人物は、それだけの危険を冒してまでして潰さなければいけないような大物ではない。
というわけで、これから書く内容にはある程度自主規制を設けるため、前回、前々回のコラムを削除している今、このコラムだけを読んで部外者が内容を特定することは不可能である。その点あらかじめご承知頂きたい。

それからこのコラムを読んでしまった会社の偉い人へ。
今回のコラムは一連の騒ぎで収拾がつかなくなってしまった当コラム欄に対して、一つの結論をつけるためのものであって、過去2回のコラムとは性格が異なることを理解していただきたい。
また、内容についても多くの社員の前で説明された客観的事実に基づくものであり、特に「口外を禁ずる」べき内容ではないことから、社名も人名も伏せている以上会社には何の損害も与えないものであると考える。

まず結論から述べよう。
今回の一連の事件に関しての社内の懲罰は既に下されている。
私の所属している部門の社員全員の目の前で事件の詳細が説明され、該当社員に対する懲罰が言い渡され、本人が我々の目の前で謝罪をした。
厳密には謝罪の言葉は一言も述べなかったが、一連の行為は認めた。

彼(仮にAとしよう)は現在も我々と同じ職場で働いている。そういうことが可能な懲罰だったということである。
皮肉を込めて言うならば「Aは最後までシラを切り通した」という表現が適当なのかもしれない。
罪状について正式に確認されたのは「私物化することを目的として、会社の伝票を不正に操作し、経費で物品を購入した」という点のみである。
言い替えれば「私物化することを目的として伝票を不正に操作して実際に購入したが、事前に不正が発覚したため私物化するまでは至らなかった」ということである。

ことの始まりは、私を含む数人の社員が「Aが過去数年に渡り伝票を不正に操作し私物を購入しており、それをネットで販売している疑いがある」ということを社内告発したことに溯る。
その後、一向に進まないAへの取り調べと、善意の第3者であるはずの我々への真意を疑うような事情聴取に対抗する形で、2本のコラムをここへ掲載することになる。

実は後から判明した話だが、当時のやり取りにおいて我々の思い違いという面は多々あったようだ。
水面下でAの調査は進行していたようだし、我々への事情聴取についても必要以上に攻撃的に受け取ってしまったという点は否めない。
しかしこのようなことは、その後事件の全容が明らかになるにつれてお互いの誤解が解けて初めて明らかになったわけであり、当時の我々は正に四面楚歌、今となれば笑い話だが、万一我々に懲罰が下るようなことがあれば会社を辞めることも真剣に考えていたし、同時に万一我々が不利益を被るような場合には労働組合が即座に立ち上がってくれるよう水面下で調整もしていた。

1本目のコラム「売りますか?」については、掲載した直後に会社の上部組織に匿名のFAXが飛ぶという大事件が起こり、もちろん飛ばしたのは我々ではないのだが、FAXの内容に私のコラムが転用された可能性が高かったために念のため削除した。2本目のコラムでもそのことを比喩的に記述している。
後にFAXの内容を確認したところ私のコラムとは全く関係ない内容が書かれており、私のコラムの転用という点では私の勘違いだったわけだが、やはりやった行為とそのタイミングは愚か以外の何物でもなく、結果的にその行為が我々を執拗に事情聴取するという会社側の行動に繋がったわけで、私にしてみたらとんだ災難である。

実は1本目のコラムにはAの行為のカラクリを詳細に記述しており、この行為に対する会社側の調査が正当かつ速やかに行われていれば2本目の続編は誕生しなかった。
ひょっとすると匿名FAXが飛ぶというイレギュラーが無ければ会社側の調査は正当かつ速やかに行われていたのかも知れない。
しかし現実には、社員Aの横領疑惑は「匿名FAXの送信者探し」へと姿を変えることになる。

双方和解が成立した現在では、当時社員Aの横領疑惑の詳細を知っている(はずの)人物は我々のみであったことを考えれば、会社側が我々に真っ先に事情聴取を行うという行動パターン自体に特に不自然なところは無いのだが、社員Aの調査が全く行われていない(ように見えた)当時の状況において、社員Aの証拠隠滅工作を許すだけの十分な日数を費やして我々への事情聴取を行うという行為は、当時の我々から見たら非常に許し難いものに映ったのは確かである。
実際は水面下で社員Aに対する調査は行われていたようであるし、社員Aについても横領は未遂に終わったことから、当時証拠隠滅工作をしていたわけではなかったようであるが、当時の状況を考えれば我々の中に、
「会社ぐるみでもみ消すつもりか!」
という疑惑が芽生え始めるのは極自然なことであったと言えよう。

そして2本目のコラム「続・売りますか?」を掲載することになる。

2本目のコラムの反響は凄まじかった。
2本目を掲載している間だけ1本目も復活させていたこともあり、会社で見ているとリアルタイムで参照カウンターが回るのがわかるほどだった。
内容について言うと、実は具体的な記述は1本目ほど過激なものではない。
そもそもの目的が社員Aの告発であって会社側への宣戦布告ではないことから、具体的に会社側のこれまでの対応への批判は敢えて書かず、「このままAが無実で終わるなんて結末は認めませんよ」という、暗に今後の正当な調査を促す内容とした。

数日でメーリングリストに流れ出し、「このサイト凄いぞ。内部告発らしい。」などというメールが、その舞台が我々の職場であることも知らず、我々に逆輸入されてくる状況になるに至り、さらにはその中の一部の人間が社員録から該当A社員を捜し出し、このコラムの執筆者である私を特定し始めたのを確認し、事件が一人歩きするのを恐れた我々はコラムを削除することを決定する。
しかし、実はその時既に会社の管理者のネットワークに2本目の「続・売りますか?」がメールで流れていたらしく、転送、転送で飛び回った「続・売りますか?」はあっという間に我々の直属の上司の元に流れ着いていた。
この間わずか4、5日の出来事である。

コラムを掲載して1週間後、私は直属の上司のさらに上の上司にいきなり呼び出されるわけだが、その時には既にコラムの執筆者が私だということが突きとめられており、何らかの処罰を覚悟した私は意外にも、
「この事件はきっちり調査します。」
という言葉をいただくのである。

その後の経緯は書いてもしょうがないので省略するが、我々も持っている限りの情報を提供し、会社側もそれに基づき調査を行い、その結果冒頭に書いたような懲罰が下った、ということである。

コラムに関しては賛否両論あったようで、Aの調査が進むのと並行して、コラムを書いた「意図」や「使用している比喩の具体的な意味」等、かなり細かいところまで説明を求められたが(Aの告発以外に「対会社」等の深い意図があるのではないかと疑われていた節がある)、私としては正当にAの調査が進めばそれでいいわけで、包み隠さずベラベラ喋っているうちに納得していただいたようだ。

さて、2本のコラムが削除されている理由がお解りいただけただろうか。
一応フィクションということで社名も人名も伏せているので、掲載を復活したところで特に会社に不利益があるとも思えないが、事件が穏便に解決した以上、ここでさらに波風立てる必要もあるまい。
事件が風化した頃、使用している仮名や一部公開している住所や電話番号、さらには引用文書等に全面的に改訂を加えて、完全なフィクションとして掲載を再開することも考えてはいるが、事件が風化するまでにはまだまだ当分かかりそうだ。

結局Aがどれだけ周りの人間に嫌われていたのか、ってことだけが妙に生々しく白日の下に曝されたってだけのつまんない事件になっちゃったしな・・・。

(2000.05.21)