しみじみと悲しい夜が更ける

久しぶりに結婚式で腹が立った。
あまりに腹が立ったために、その直後に文章にしてしまうと大変なことになりそうだったので、しばらく寝かせておいたネタだ。
一応最後は綺麗にまとめておいたが、これから結婚する方は参考にしてくれ。

彼は俺の大学時代のバンド仲間だ。
音楽面では尊敬に値する人間だ。
大学時代に彼と一緒にバンドをやっていた時間は、これまでのつまんねー人生の中でも、最も輝いていた時期の一つだ。

その彼が結婚するというのだ。

俺たちのバンドのメンバーは4人いたが、皆決して順調な音楽人生を送ってきたわけではなかった。
大学入学当初は実力が無かったこともあり、バンド的にはまともな足跡は残せなかった。
卒業間近の4回生の時に、ようやく力をつけてきたそれぞれが、お互い引かれ合うように結成し、もがき苦しみ、自分を全て吐き出して築きあげたのがDUMBOというバンドだった。
そしてDUMBOは、間違い無く俺たちがサークルに在籍していた数年間では自他ともに認める最強のバンドだったのだ。
俺は卒業後もずっと音楽活動は続けているし、様々なバンドに在籍したが、未だ当時のような沸き立つような興奮を得ることはできないまま今に至っている。

さて感傷に浸るのはこのぐらいにしようか。

その後彼らとは一緒にバンドを組むことはできなかったが、まあ、お互い結婚する時は再び集まって音楽で祝福しようじゃねーか、っていう暗黙の了解があったのは事実だ。
実際俺が結婚した時も、ギターの治郎が結婚した時も、何よりも優先してライブハウスを押さえた。
勤務地での結婚式ではなく、平日は仕事に忙殺されているのにも関わらず、一緒に演奏できる環境を作るためだけに奔走した。

別に苦労話をしたいわけじゃない。
それが俺達には「当たり前」だったのだ。
リレーでバトンを繋ぐランナーのようにアンカーに控える彼にバトンを渡すことが、そしてどんなに歳をとったってバンドで祝福し合える環境を作り続けることが、俺達には当たり前だったのだ。

その彼が結婚を決めた。
相手はどうでもいい。
ただ彼女は彼がバンドをやることについては否定的らしい。
本人が何も語らないので申し訳ないが彼女に悪者になってもらう。
今回の一連の不愉快な出来事は全て彼女が悪いに違いない。
逆にそうとでも思わないとやってられないのだ。
ま最大の敵が現れたわけだ。

いろいろ悪条件が重なったのも事実だ。
彼女との出会いは仕事上のつきあいにも多大な影響があったようで、今後の人生を考えると彼女から派生する、仕事の上で頭の上がらない偉いおっさん連中の扱いに、最も神経をすり減らしていたのは確かだろう。

結局、俺にはほとんど情報をくれないのでフォローのしようが無いが、バンド再結成の話は無くなった。
これは事実上「もう一生一緒にバンドをやることは無い」ことを意味するに等しい。
どこに住んでいようが、身の回りにどんな出来事が起こっていようが、なんとしてでも駆けつけ、とにかく昔の仲間が一斉に一ヶ所に集まってくる結婚式という人生最大のイベントで、兎にも角にも演奏することができなかったのだ、というかその機会をつぶしたわけだ。
今後よほど奇跡的なイベントでも無い限り、生まれてくるお互いのガキの都合も全て整って全員が一同に会する機会など無い。

実際この時点で俺個人的には終わってるのだ。
いろんなもんを天秤にかけて、俺らとの付き合いは軽んじられたわけだ。
表面上は「まあ仕方ないさ」とか言ってたけど、本心は「その程度の器しかねえのかよ」って思っていた。
でもまあ気持ちを入れ替えて久しぶりの再会を喜びあおうと思い直したのだ。
しかし、そう思ったのも束の間、さらに俺の気持ちを強烈にダウンさせる出来事が待っていた。

なんだか意図が全然わからんのだが、いきなり「二次会はやらない」宣言をしたのだ。
そもそも二次会なんて新郎新婦が企画するもんじゃないんだから、やらないって言われたって企画されたらよっぽどの理由が無い限り参加するのが義務だと思うが、とにかく二次会やらない宣言が一方的に通達された。

以前もコラムで結婚式のことを書いたことがあるのであまり詳しく書く気は無いが、結婚披露宴っつーのは人に披露して何をするかっつーと、無事神前なり教会なりで式を挙げ今から夫婦になりました、今までお世話になった方ありがとう、これからも二人でがんばるから今までと変わらないお付き合いをよろしくね、っていう意思表示を、料理でおもてなししつつ行う儀式なのだ。
決して「金をもらって祝ってもらう場所じゃ無い」わけだ。

たまに金が無いんだろうが、交通費も宿泊費も出さずに呼びつける大バカ野郎がいるが、遠くから出席する場合当日の夜の飲み代も考えたらご祝儀も合わせて10万近く飛んじゃうわけで、そんだけの金かけて退屈なてめえの披露宴なんか見に行きたくねえっつーの。
何を勘違いしてるのかしらないが、披露宴はあくまでおもてなしする場なのだ。
おもてなしする気がないなら最初から呼ばないでくれ。
そんなに金が欲しいならご祝儀は銀行振込みで送ってやるよ。

ちょっと力んでしまったが、まあそういう心がけが欠けている披露宴は出席するだけ不愉快なわけだ。
仕事上の付き合いの招待客は普通そこで義理が終わるからいいが、友人はそうはいかない。
披露宴という儀式自体、わざわざ遠方から呼びつけて「これからもよろしく頼むよ」という意思表示をする場所なわけだが、親しい友人に対しては表面上の儀式だけではあまりにも冷たい。
友人というものは、いくら金がかかろうが、いくら仕事が忙しかろうが、全てに優先してお祝いに駆けつけるものなのだ。
ところが披露宴は新郎新婦本人と話をする機会などほとんど無く、久しぶりに会う友人なら特に、ゆっくり話したいという気持ちが強いだろう。

そういうそれぞれの満たされない気持ちを一気に解決するのが披露宴二次会の役割である。
二次会という名称のため、ともすれば軽視しがちだが、現代の結婚式においては非常に重要な役割を担っており、しかもそこがお互いの純粋な気持ちの交わる唯一の場所であるが故に、よっぽどの理由が無い限り省略すべきではないし、開催できないなんらかの理由があるのであれば、お互い納得の行くようきっちり提示すべきである。

何度も言うが、二次会は既に新郎新婦だけのものでは無い。
明示できる理由が無いのであれば新郎新婦は企画された二次会に出席すべきだし、忙しかろうが体力的にしんどかろうが、自分の立場をわきまえ決して不快感を表面に出してはならない。
少なくとも俺はそう思う。

その後の経緯を述べよう。
一方的に二次会無し宣言を受けた俺達だが、バンド仲間はみな泊りがけでの出席であり、正式な二次会とは行かないまでも「せめて夜軽く一緒に飲もうや」という話を彼に伝え、口頭で了承を得ていた。
はっきり言って俺の中ではもう彼は終わっていたのだ。
バンドの企画も実現できねえ、二次会も一方的にやらねえ、って高い金払って何のために呼び出されるのだ?
それでもまあ、お目出度いイベントってことでもあるし、なるべく丸く事態が収束するように、当日顔だけでも見せてくれれば水に流そう、ってな気分だったのだ。
っていうか泊りがけで何人も友人を集めておいて、二次会に顔出さないっていう選択肢が存在するなど考えてもいなかった・・・。

その後、まあせっかく飲むんだからっつーことで、サークルの仲間に声をかけた。
すると彼が非常にネガティブな反応を示した。
なんかいろんなことが重なって処理できないらしい。
俺としては以前に口約束を得てるわけだし、何が問題なのか不思議だった。
めんどくさがってるオーラがぷんぷん臭ってくる。
なんか理由があるならやめようか?と言ってもあいまいな返事しか返ってこない。

その後数日して、またしても一方的に「行けるかどうかわからない」宣言を受けた。
つまり「行かない」っつーことだよな。
そして最後に彼はこう言ったのだ。

「別に二人に関係があるのはあんたらだけじゃないからね」

俺達を友人だと思っているならば絶対言ってはいけない台詞だった。
「知り合いはいっぱいいるんだからさあ、おめえらだけに構ってられねえっつーの。」って言われたのに等しいのだ。
はっきり言ってはらわた煮えくりかえる思いだったが、喉まで出かかった言葉を必死の思いで飲み込んだ。
それでも俺達は心のどこかでは信じていたのだ。
そのくらいの深い絆で繋がっているんだとみんな思っていた。
「まああいつの性格だからあんな風にしか言えないんだろうけどさ、顔ぐらいは出してくれるよ、絶対。」

当日の夜、俺達は無言のまま居酒屋で日付が変わる音を聞いた。
腹が立つというより、なんだかしみじみ悲しい夜だった。

(2001.08.14)